酷いことする時酷い顔できる大人に成ってくださいね｜かなみ／サキュバスTOKYO

洞窟、と戯けて呼んでいる
東京都のどこかにある
鬱屈とした手狭な自宅を飛び出して
電車に揺られる

錦糸町駅に着いたら
南口を出て
かばんから煙草を1本と
ショッキングピンクのライターを
ごそごそと取り出して
半透明の喫煙ブースに駆け込む

この時はまだ
わたしを囲う半透明の硝子と同じく
半分源氏名で半分本名のわたしで
半分透き通ったつもりでいる

喫煙者のそれぞれの生活の点在に
思いを馳せながら
感傷的な音楽と共に
鬱屈とした気持ちすら煙に巻いてもらう

一刻も早くかなみとして
錦糸町を貫いてしまいたい衝動に駆られるのを
ニコチンを取り入れたり
余分な分は吐き出したりしながら
落ち着ける


かなみとして笑ったり怒れたり
時々泣いてしまう事務所へ
向かう道のお気に入りは
住宅街を迂回するんじゃなくて
ホテル街を突っ切る方


この世の全てを手にしたみたいな顔して
手を繋ぐ幸せそうなあの恋人たちにも
喧嘩したり、老いて死んだりしたりしながら
いつか平等に別れが訪れるんだろうな、と
「錦糸町で一番性格がいい風俗嬢」
を名乗っているのに
少し、意地悪なことを考えてしまう

錦糸町のホテル街を抜けた先には
大きな救急病院がある
そこへ急ぐ救急車のサイレンが
聞こえる頃には
すっかりかなみとして透き通ってる
気がする　気がするだけ

数日前とか直前に
「今から女の子に虐げられながら
射精しよう」
と決心してくれた勇者からの
電話一本で
戦場・ラブホテルに向かって
403とか201のチャイムを鳴らして

下腹部の淫紋のタトゥーが疼き出す


そして最初から分かりきってた
敗北射精で
タイマーが鳴るまでの間しか一緒に居られない
貴方のことをわかりきったり
わたしのことをわからせたつもりでいる

また事務所に帰る


その道中ふと思う


毎朝酸素の薄い満員電車で息苦しく
なんとかやり尽くしている貴方の
全てを受け止めたいけど
うまくできたかな、って

冷たい風で温度を下げられて
さっきまで冷たかった唇に
わたしの体温を移したばかりだけど

その温もりを春鬱に攫われて
わたしの乳輪の大きさはおろか
源氏名の一文字目すら思い出せなくなるくらい
何もかも忘れてしまう前に


用事がないと来ない
治安の悪い錦糸町に
また来てね


また会えるよね？